イソジンの危機の時代に、乾杯を
こんばんは、26歳素人童貞です。
「この ぶんょしう は いりぎす のケブンッリジ だがいく の けゅきんう の けっか にんんげは もじ を にしんき する とき その さしいょ と さいご の もさじえ あいてっれば じばんゅん は めくちちゃゃ でも ちんゃと よめる という けゅきんう に もづいとて わざと もじの じんばゅん を いかれえて あまりす」
数年前、インターネットで上記のようなコピペが流行した。何の科学的なエビデンスもない説であるらしいが「人間は最初と最後の文字さえ正しければ文章が読める」という話である。上記のコピペを読んだ感じでは、この説は正しいように思われる。
同じように、「出会いと別れさえ印象が良ければ、お客さんが本指名として帰ってくる」と豪語する新宿の元デリヘル嬢がいた。つまるところ、「人間は最初と最後の印象さえ良ければ、良い人に思われる」ということである。風俗客としての経験から考えてみると、これも概ね正しいように思われる。
そこで、26歳素人童貞も同じように考えてみた。「会社でトイレに入る時と出る時に、イソジンでうがいをすれば〝ほぼデリヘル〟になるのではないか?」、つまるところ、「人間は最初と最後がイソジンならば、デリヘルに思われる」という話である。やはりこれも、概ね正しいように思われてならなかった。更に付け加えてしまえば、トイレに入る時にイソジンでうがいをし、個室に入ってウォシュレットをアナルに当て「あぁ、あぁっ、あぁぁんんっ」とアナル責めをして気持ちよくなった後、個室を出てイソジンでうがいをして帰ったならば、それは〝ほぼM性感〟になるのではないか、とも考えた。しかし、よくよく考えてみれば粘膜接触のないM性感では基本的にイソジンでうがいはしないため、〝ほぼM性感〟の夢は早くも頓挫した。
そんなことを考えたので、〝ほぼデリヘル〟の夢を叶えるために、私は半年ほど前、人生で初めてイソジンを購入した。250ml1262円である。
これで、これからのサラリーマン人生、毎日のようにトイレで〝ほぼデリヘル〟を味わえるのだ! そんな大きな期待を抱き、Amazonからイソジンが自宅に届いた当日、まず自室で1うがいしてみた。イソジンの独特な消毒薬の香りが口の中に広がった直後、私の視界は突如、真っ暗になった。違うのだ。いつもデリヘルでうがいをしているあのイソジンの味とは、全く違うのだっ! まさか、アレはイソジンではなかったのか!? そんなことを疑い始めている自分がいた。いや、いつもデリヘルでうがいをしているアレは、イソジンのはずだ。イソジンであるべきなのだ。もしイソジンでなかったとしたら、「ファーストキスの味はイソジンでした」と思ってきたこれまでの私の人生が救われないではないか!
あまりのショックさをツイッター上で嘆き、新宿の元デリヘル嬢に「風俗の味がするイソジンを教えてください」と頼んだ。提示されたのは「ファンガーグル」であった。もう一度言おう。「ファンガーグル」である。「ファンガーグル」とは一体何なのか。風俗に行ってうがいをする際に「じゃあイソジンでうがいしよっか♡」という風俗嬢は数多いるが、「じゃあファンガーグルでうがいしよっか♡」なんて言ってくる風俗嬢は、これまで1人もいなかった。ちなみに、このまえ池袋の某素人系のデリヘルを利用したら「じゃあイソジンでうがいしよっか♡」と言いながら、原液だけをコップに入れたものを渡してきたデリヘル嬢に出会った。もちろん、これはデリヘル嬢による私への嫌がらせでも何でもない。なぜならば、そのデリヘル嬢本人も、正々堂々と原液だけでうがいをしていたからである。私はM性感に行って「あんたの性感帯ここでしょ!」と女王様に言われると、別に性感帯でなくても「そ、そこ性感帯でひゅ~!」と、思わず言ってしまうタイプの人間なので、もちろんここでも私はデリヘル嬢には何も口を出さず、渡された原液だけでうがいをした。そんな風に、原液だけでうがいをし始める一風変わった風俗嬢だっているのに、「じゃあファンガーグルでうがいしよっか♡」なんて言ってくる風俗嬢は、これまで1人もいなかったのである。
仕方がないので、「ファンガーグル」をネットで検索して購入してみた。250ml500円である。
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「ファンガーグル」のことを調べていく過程でわかったのだが、どうやら私たちが「イソジン」と呼んでいるのは、『ガーグル』という大きなカテゴリーの中の「イソジンガーグル」のことを指しているらしく、その他にも、「ファンガーグル」や「ガーグルプロ」、「モナミクリンガーグル」、「コサジンガーグル」など、多くのガーグルが存在しているようだ。そして、これらは「ポビドンヨード」という医薬品が含まれているかいないかで大きく分けることができるのだ。
ポビドンヨードとは、殺菌作用のある医薬品で、イソジンが黒褐色で、独特なヨウ素の味や匂いを発しているのも、このポビドンヨードが含まれているからなのである。
ここで、一つの疑問が生まれる。「ファンガーグル」のような業務用のうがい薬は、この医薬品であるポビドンヨードが入っていない分、低価格でコストを下げられるので風俗店で重宝されているのであるが、ポビドンヨードが含まれていないにも関わらず、どうして「ファンガーグル」のようなうがい薬もイソジンのような黒褐色をしているのであろうか? 私はその理由を、業務用うがい薬を販売しているサイトで見つけてしまった。
画面中央、赤字で表記されている文字に注目してほしい。「液体色はおなじみの色ですのでスムーズにご利用頂けます」と書かれているのである。イソジンの黒褐色に合わせて黒い色で作ってあるから、イソジンからの乗り換えもスムーズですよ、ということだ。これは一体何の成分で色付けがされているのか調べたところ、答えはカラメルであった。要は、言ってしまえばイソジンに見えるように嘘をついているのだ! 風俗で使われている業務用うがい薬の黒く濁った色は何の色かと問うならば、それは嘘の色なのである!
しかし、ここで注意して頂きたいのは、私は「ファンガーグル」をはじめとするポビドンヨードの含まれていないうがい薬を使っているお店を糾弾したいわけではない。別にイソジンが性病予防に効果があるという医学的エビデンスがあるわけではないし、1日に何度もうがいをする風俗嬢側からしたら、殺菌作用の強いイソジンを使い続けた方が口の中の粘膜が弱ってかえって菌を繁殖させてしまう可能性だってあるので、「ファンガーグル」のような業務用うがい薬を使用している方が合理的な面もある。だから、ここでは風俗店でうがい薬はどれを使うべきかの正義の話をしたいのではない。私が訴えたいのは、自分がイソジンだと信じていたものが実はイソジンではなかったと知ってしまったことによって、「ファーストキスの味はイソジンだった」と思いこんできた、これまでの私のイノセントな心が傷ついてしまったということなのである! イソジンではないものが、〝イソジン〟と呼ばれ続けていること。ただそのことだけが問題なのである。私たち人間は、こんな小さなことで心のイノセントさを簡単に失いうる生き物だ。そして同時に、私たち人間は、失われてしまった心のイノセントさを取り戻す試みに取り掛かる力も常に持ち合わせている。
というわけで、私は心のイノセントさを取り戻すために「ファンガーグル」を購入したのだ。Amazonから「ファンガーグル」が届いた日に、まずは自室で1うがいをしてみた。私の口の中は、デリヘルに満ち満ちた。やっと出会えた。新宿の元風俗嬢が言っていたように、多くのデリヘルで使われているうがい薬は、ポビドンヨードの含まれていない「ファンガーグル」のような味をしているのだ。
私はこの日の翌日、小さな容器に「ファンガーグル」と、それから少しの幸せを詰めて、会社へ持って行った。ちなみに、うがい薬を会社に持っていく際に、どの容器に入れて持っていけばよいのかという問題が生じるが、私はワンタッチキャップの小さくてシンプルな容器に入れていくことをお勧めする。
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デリヘルでは、上のようなワンタッチキャップのものに加えて、ネジキャップ式のものや、キャップ付ディスペンサー型のものがよく使われているが、これらは池袋の『キッチンABC』のような飲食店に入った時に、サラダ用のドレッシングとして同じ容器が使われている可能性が非常に高いため、避けた方がベターなのである。
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ファンガーグルを片手に10:00に出社した私は、10時20分にはトイレに向かっていた。出社した直後はトイレを使っている人がよくいるものだが、20分も経てばトイレの利用者は減り、舞台が整うのである。まずトイレに入った私は、手持ちのファンガーグルで1度うがいをした。人間の習慣とは不思議なもので、ファンファーグルでうがいをしたところ、勃起もした。ファンガーグルでうがいをする時はデリヘルで女の子と裸でシャワーを浴びている時なので常に勃起しているのであるが、「ファンガーグルでうがいをする時は常に勃起をしている」という記憶から、「ファンガーグルでうがいをすれば勃起をする」と、脳が勝手に因果関係を見出した瞬間だった。うがいの後は、そのままトイレの個室へと移動し、ズボンとパンツを脱ぎ、ウォシュレットをお尻に浴び「あんっ、ああぁんっ、んっ、あんっ」。ウォシュレットプレイが終わったところでパンツとズボンを着直し、再び手洗い場へと向かう。そこで再びファンガーグルでプレイ終わりのうがいをし、私はトイレを出てオフィスへと戻った。
結論から言ってしまえば、当初から期待していたような〝ほぼデリヘル〟はそこにはなかった。それどころか、そこにあったのは〝もはやデリヘル〟であったのだ。
ここで一度、デリヘルでの自分の動きを振りかってみよう。
ラブホの部屋にいる
→ ①服を脱いで浴室に入る
→ ②シャワーを浴びてイソジンでうがいをする
→ ③浴室を出る
→ ④プレイをする
→ ⑤プレイ後に再び浴室に入る
→ ⑥シャワーを浴びてイソジンでうがいをする
→ ⑦浴室を出る
次に、オフィスのトイレでの自分の動きを振りかってみよう。
オフィスにいる
→ ①トイレに入る
→ ②ファンガーグルでうがいをする
→ ③トイレの個室に入る
→ ④ウォシュレットでアナルを責められる
→ ⑤個室を出る
→ ⑥ファンガーグルでうがいをする
→ ⑦トイレを出る
この2つの動きの中で、①空間移動のタイミングを青色に、②うがいのタイミングを緑色に、③プレイのタイミングを赤色にしたものが以下である。
ラブホの部屋にいる
→ ①服を脱いで浴室に入る
→ ②シャワーを浴びてイソジンでうがいをする
→ ③浴室を出る
→ ④プレイをする
→ ⑤プレイ後に再び浴室に入る
→ ⑥シャワーを浴びてイソジンでうがいをする
→ ⑦浴室を出る
オフィスにいる
→ ①トイレに入る
→ ②ファンガーグルでうがいをする
→ ③トイレの個室に入る
→ ④ウォシュレットでアナルを責められる
→ ⑤個室を出る
→ ⑥ファンガーグルでうがいをする
→ ⑦トイレを出る
お気づき頂けただろうか。デリヘルでうがいをする時と、オフィスのトイレでうがいをする時では、①空間移動のタイミング、②うがいのタイミング、③プレイのタイミングが全く同じなのである! この両シチュエーションにおける人間の動きの同型性こそが、オフィスのトイレにおけるうがいという振る舞いを〝ほぼデリヘル〟どころか〝もはやデリヘル〟に思わせるのだ。
私は今年の6月頃から、生きる気力の湧かない時には、この〝もはやデリヘル〟の儀式をオフィスでよく行うようになっている。これで私の〝もはやデリヘル〟人生も安泰だ、と思っていた矢先、イソジン業界に転機が起こった。
2018年8月1日、ムンディファーマ株式会社・シオノギヘルスケア株式会社が『透明なイソジン』という商品を発表したのである。これまでのイソジンの黒褐色やヨウ素の臭いの元だった医薬品であるポビドンヨードを成分にすることをやめ、色が透明で、アップルやミントの味のするイソジンが開発されたのである。
天下のイソジンが透明になってしまったのならば、〝イソジンが黒褐色に濁っているから〟という理由だけで同じ色に染められていた「ファンガーグル」のような業務用うがい薬たちはどうなってしまうのだろう。おそらく、イソジンの透明化が浸透してくるのと同時に、業務用うがい薬も徐々に透明になってゆき、「ファンガーグル」のようなうがい薬は、従来のイソジンと共にその姿を消して透明になってゆくのだろう。新しく開発された透明なイソジンは、業務用うがい薬の嘘の色までをも、透明にしてしまうのである。
「俺らが若い頃はなぁ、黒くて薬品の匂いのするうがい薬でうがいしてたんだぞっ!今の子たちは恵まれてるわ!今度、熟女風俗嬢に聞いてみろ!」
そんな風に、ノスタルジーに浸りながら風俗嬢に説教をするクソ客になる日もそう遠くはないのかもしれない。
イソジンの透明化、それに付随する業務用うがい薬の透明化という歴史の動きは、もはや止めることができないだろう。こうした歴史の流れという大きな動きに対して、私たち小さな人間のできることは、それを止めるのでもなく、反逆するのでもなく、これまで自分たちが、あの黒くて臭みのあるイソジンに染み込ませてきた記憶を、同時代人として共有し、そのまま死んでゆくことくらいしかないのである。
ということで、26歳素人童貞は、黒褐色で、あの独特なヨウ素の臭いが仄かに香るお酒を開発した。ジン・トニックに、とある飲料水を少し加えることで、後味が仄かにイソジンの香りのするイソジン・トニックが出来上がったのだ。お酒が飲めない人のことも考え、ジンジャーエールに、とある飲料水を少し加えることで、後味が仄かにイソジンの香りのするイソジンジャーエールも開発した。
11月18日(日)19時~、新宿ロフトプラスワンで著書『昼休み、またピンクサロンに走り出していた』の出版記念トークイベントを開催するにあたり、イソジン・トニックと、イソジンジャーエールをオリジナルドリンクメニューとして提供することにした。このイソジンの危機の時代に、是非、皆さんがイソジンに染み込ませてきた記憶と共に、乾杯をしましょう。
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