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就活について② 就活始めたら風俗嬢に顔面舐められてた

 今年の2月、大学院受験料の振込に失敗し、次の年度からの身分が無くなることが確定した。僕はすぐさま実家のある静岡に帰った。
 しばらくは親のスネをかじって生きていこうと思った。今の親の世代が若かった頃は高度経済成長で日本経済は右肩上がり。僕の親はもう60を超えているから、年金もしっかり貰っている。一方で今の若者は賃金が低く、払った年金もおそらく貰えない。僕はそんな世代間格差を解消したいと思った。そして自分のできる範囲で行動した。つまり親のスネをかじった。大学で学んだ社会の知識を、実生活でさっそく活かした。まさに自分の足元から、社会における格差解消のために、親のスネをかじったのだ。

 そんな冗談はさておき、やはり社会のメインストリートから外れたところに来てしまったという不安があったのだろう、10万円で購入したiPad Pro の裏側に『素人童貞』という刻印をアップル社に頼んだのはまさにこの時であった。

 しばらくは図書館に通って好き勝手に本を読む優雅な生活が続いた。しかし、田舎は居心地が悪かった。朝7時頃に起きると、近所のおばさん達のヒソヒソ話が窓の外から聞こえてくる。

 

ばばA『あれっ、○○さんの息子さんって今なにしてるの?』

ばばB『あっ、今働いてないらしいよ(小声)』

ばばA『あらっ、ゴニョゴニョゴニョゴニョ(聞き取れないレベルの小声)』

 

 そう、僕の話だ。僕が無職とわかった途端に、おしゃべりの声は小さくなる。気を遣われるのが辛かった。

 実家に寄生してから、大学時代に購入した専門書をAmazonで売って小金を稼いでいたので、発送のためによく郵便局に足を運んだ。そこには小学校の頃の同級生の母親が働いていた。何か振込をしようと銀行に行けば、中学生の頃の同級生が働いていた。どこにいっても何をしても古くからの知り合いがいるし、自分が何をしているのか、ご近所さんネットワークにより情報も筒抜けだ。それに僕は中学の頃にいじめられて友達がいなかった。中学で僕をいじめてきたマイルドヤンキー共は地元でウェイウェイしているので、いつ遭遇してもおかしくない。いじめられていたのが中学時代というのも災難なもんだ。実家の徒歩圏内にかつてのいじめっ子達が生息しているのだから。だから必要以上に外には出なかったし、コンビニもなるべく真夜中に利用した。まさか24歳にもなってこんな思いをしなければいけないとは、中学生の頃の僕は予想だにしていなかった。就職をしたいというよりかは、息苦しい地元から一刻も早く離れたいという気持ちで就活を始めることにした。動き出したのは10月だった。

 僕は大学受験で一浪しているし、大学4年の頃には就活もしなかった。就活のために動き出したのも今年の10月の終わり頃で、謎の空白期間もできてしまった。おまけに大学では哲学やら倫理学やらを勉強してしまったので何のスキルもなく、就活における無能さが果てしなかった。

 無駄な苦労はしたくなかったので新卒市場は初めから諦め、とりあえず、関東圏で第二新卒既卒の人のための就活を支援しているサイトに登録し、2週間後にその会社のオフィスを訪問した。静岡から鈍行列車で片道3時間半。午前10時にオフィスに到着すると、若くて綺麗な女性が、担当のアドバイザーと面談するための席に案内してくれた。僕は案内された席に腰掛けた。初回利用の人にはアンケート記入をお願いしているらしく、女性は立ち上がったまま、座っている僕の目の前にアンケート用紙を置いた。その時、前かがみになった女性の胸元が視界に入ってきた。女性のソレは、かなりガッツリ見えていた。おそらくDだ。予想外、それはあまりに予想外な出来事であった。大学を卒業し、実家に寄生していた半年間、僕は風俗に行っていなかったのに、歯車が狂い出した。今日の午後、僕は風俗に行くことになるだろう。そんな予感がした。

 アンケートを記入し女性に手渡すと、担当アドバイザーの男性の方が来た。希望の職種などを聞かれたので、あらかじめサイトでチェックしておいた企業のリストを伝えると、

 

「ふふふ、これらはね、男性は無理だよ(苦笑」

 

 僕が希望していたのは「女性も活躍する職場です!」という宣伝が入っている事務職ばかりだった。僕もそんな職場で活躍したかったし、日頃から風俗嬢の唾液を摂取していたので、体内環境的にはほぼ女性の可能性もワンチャンあると思ったのだが、担当アドバイザーの話によれば、「女性も活躍する職場です!」というのは「女性しか採用しません」という就活界の暗黙のルールであるらしかった。特に就活の相談もする友人もいなかったので、そんな暗黙のルールがあることすら知らなかった。

 10分間くらい、これまでの経歴や理想の職種や職場環境などを聞かれたので、デスクワークで事務職みたいなのがいいなぁと伝えたら、担当アドバイザーがIT企業を7つくらい紹介してきた。まぁ、IT企業は人材不足だし、第二新卒既卒でも採用してくれるといったら、中小IT企業くらいですわな。ということで、全くパソコンやITのことはわからないけど、IT企業を受けることにした。ちなみに、この日の午後には、今まさに相談を聞いてもらっている、第二新卒既卒の就活支援をしている企業の採用試験も受ける予定だった。「第二新卒既卒だからといって無能なわけではない」「努力しているのに巡りあわせが悪かっただけの人も多い」ということで、第二新卒既卒の就活支援を行っていて、半分営利で半分人助けみたいな感じがいいなぁと思ったからだ。

 とりあえず紹介してもらったIT企業の説明を受け、今後の就活の予定を一緒に考えた。午前中2時間ほどで相談は終わり、午後の採用試験までに時間があった。「では、午後の採用試験も頑張ってください」と担当アドバイザーからエールを貰い、お昼を買いに外に出た。外に出ると僕はすぐに携帯電話を取り、先ほどの担当アドバイザーから貰った名刺を見ながら電話をかけた。

 

わし「もしもし、お世話になっております。先ほどまで相談をさせていただいた○○です。本日はどうもありがとうございました。」

担当「おっ、○○さん!いえいえ。どうしました?」

わし「少し考えまして、本日提案していただいたIT企業の中から受けようと決めましたので、午後の御社の採用試験をキャンセルさせて頂いてよろしいでしょうか。」

 

 あの時の予感が的中した。僕のちんこは午後の予定を空け、風俗に行こうとし出したのだ。Dのおっぱいに狂わされた歯車は、もう元には戻らなくなっていた。

 僕は走った。いや、正確に言うならば、ちんこが僕を走らせた。無職でお金もなく、この日は東京までの交通費もかかってしまっている。経済性を考え、荻窪の某ピンクサロンへ向かった。

 お店に到着し、店頭パネルを確認する。1人だけパネル写真のない女の子がいた。このパネル写真のない女の子は確か、プロフィールに西野カナ似、テクニック抜群、男の人が気持ちよくなるのを見るのが好き、できるだけ要望を聞きます」というような文言が並んでいる子だった。「男の人が気持ちよくなるのを見るのが好き」という言葉が出てくる女の子は、ちょいMな僕にとって、経験的にハズレがない。これは風俗に通って初めて信じることができたことだが、男の人が気持ちよくなるのを見るのが好きで好きで仕方のない女の子というのが、世界には本当に存在するのだ。そしてそういう性格の女の子以外の口からは「男の人が気持ちよくなるのを見るのが好き」なんて具体的なフレーズは決して出てこない。奴らは「エッチ度満点です☆」「イチャイチャしましょ☆」「一生懸命頑張ります☆」とか適当なことをプロフィール上でほざくくらいしかできないのだ。そんな偏見があったので、パネル写真が無いことを気にせずに自信を持って指名。待ち時間もなくすぐに案内された。

 西野カナ似というのはほとんど悪ふざけにしか思えないくらいに西野カナに似ていない、町田のキャバクラにでもいそうな生活感の漂ったギャルメイク風の、おとなしそうな女の子が現れた。似ていないけどカナちゃん(仮名)と呼ぼう。ルックスはあまり好みではなかったけど、「男の人が気持ちよくなるのを見るのが好き」ということだけあって、最初から濃厚なプレイだった。もっと言えば、男の人を気持ちよくしてコントロール下に置いてやりたいという、男の人を心の底では憎悪している女性が抱きそうな表情が見え隠れするような濃厚プレイだった。これは間違いなく顔面舐めフェーズに突入できると思った。あまりに強い確信があったので、キスの最中に「ねぇ、顔舐めて」とストレートに伝えた。ピンクサロンのようなライトサービスのお店では基本的に顔面舐めのようなサービスはない。しかし、カナちゃんはまるで顔面を舐めるのが当然であるかのように、一切の躊躇なく顔面を舐め始めた。少し酸味のある唾液が僕の顔を汚した。その唾液の臭さは、まさにこの時の僕が感じていた人生の苦渋に似通った臭さだった。泣いた。僕は顔面を舐められながら泣いた。地元では押し殺さなければならない感情や、就活への不安が湧いてきた。しかし誤解して欲しくないのは、別に僕は悲しいから泣いたのでは無いということだ。僕は自分の悲しさや不安を風俗嬢に受け止めてもらいたいから風俗に行くようなヤワな人間では無い。悲しいから泣いたなどと捉えてしまうと、顔面舐めの本質を見誤る。僕は悲しいから泣いたのではなく、泣いたから悲しくなったのだ。

 人は楽しい時に笑い、悲しい時に泣く。そう思われている。しかしそれは事の半面に過ぎず、笑うから楽しくなり、泣くから悲しくなるという半面もまたある。多くの接客業が取り入れているように、朝礼で笑顔を作る習慣をつけるだけで、人は本当に自分が楽しいように思えてくるものだ。もっと身近な例を挙げれば、自分でもよくわからない理由でふとした瞬間に涙を流した時、初めは本当に大したことなどなかったのに、だんだんと過去の辛い記憶が走馬灯のように呼び出され、涙が止まらなくなってしまうことがある。人は笑うから楽しくなり、泣くから悲しくなるのだ。

 顔面を舐められるということは、ある種の<泣く>である。顔面舐めをされる時のことを考えてみるといい。目に唾液が入らないように、目をきつく閉じ、それに連動するように、口元が軽く引き締まる。そして顔面を舐められる。カナちゃんは唾液の量が多く、遠慮せずに顔面舐めをしてくれた。僕の頬には、一筋の唾液がこぼれ落ちる。目を閉じ、口元を軽く引き締めた僕の頬に、一筋の唾液。それはもはや、涙である。僕は、まず泣いたのだ。そして辛い記憶や不安が呼び起こされ、悲しくなった。顔面舐めの気持ちよさは被虐感だ、と以前述べたが、それは端的に、顔面舐めが<泣く>を引き起こすからとも言えるかもしれない。

 顔面舐めで沸き起こる不安も一期一会である。24歳で実家に寄生していることの情けなさ、地元の居心地の悪さや就活への不安、それらは都内で就職した今となっては、いくら顔面を舐められようが得られないものになってしまった。幾重にも重なる辛さを感じていたこの時期の、この顔面舐めは、忘れられないものになっている。

 

 

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